医学と診断

<番外編>自閉症を関係性の障害と考えると

前回、前々回と、自閉症は人と人との関係性の障害かもしれないというような話を書いているのですが、 関係性なんてものに実体はないんじゃないかという感想を持つ人もそれなりいいらっしゃるんじゃないでしょうか。関係性は目に見えないし、とらえどころがな…

脳と腸の深い関係が医学を変える

** 内臓感覚 脳と腸の不思議な関係 福土 審 **心身医学というジャンルがあるそうです。この本の著者は、ストレス性の病気、特に過敏性腸症候群(IBS)を専門に研究している方です。緊張が高まると胃腸の具合が変わるという体験は誰でもしたことがあると思…

異常とみなされることで精神の病ははじまる

** 異常とは何か 小俣和一郎 **タイトルには、異常、としか書いていませんが、精神異常とはなにか、という本です。著者は、精神科医であり、精神医学史の研究家でもある方です。この本を読みながら、私たちが何気なく受け入れている、精神の病気、という…

精神科の薬の歴史は精神科の病気の歴史

** 心の病の「流行」と精神科治療薬の真実 ロバート・ウィタカー(アメリカ) **アメリカのジャーナリストによって書かれた、精神科治療薬の歴史や背景についての報告です。著者がこの問題に取り組むようになったきっかけは、統合失調症の転帰について、…

<番外編>科学的理論とつきあう知恵

50歳を間近に再び学生をやっています。今期は『臨床心理学特論』の講義を聴いているのですが、うつ病(気分障害)について、教科書にこういう記述がありました。 原因不明の脳機能変調による典型的うつ病をはじめとして、脳血管障害の後遺症として現れる血管…

世間のしろうと理論のしくみを知る

** 常識の社会心理「あたりまえ」は本当にあたりまえか 卜部敬康・林理 編 ** 私たちの<常識>は、学校で習ったことや、新聞やニュースで知った情報や、お母さんや近所のおばさんに聞いたこと、学校のうわさ、漫画やドラマから、などいろんなもので成り…

<番外編>自閉症のふたつのスペクトラム−私なりの考察−

前回とりあげた本『自閉症スペクトラム障害』(平岩幹男)(→記事)のなかに、 自閉症の「スペクトラム」についての平岩氏の考え方を述べた部分がありました(pp43-44)カナー型自閉症を例にとって説明してあります。同心円を描いて真ん中にコア群、その周り…

療育の進歩が自閉症への認識を変えていく

** 自閉症スペクトラム障害−療育と対応を考える 平岩幹男 ** 岩波新書です。自閉症スペクトラムについて初めて学ぶ親御さん向けの内容ですが、社会への一般的な理解を広める意図も感じられます。既にASDのことを学んだ、初歩的なことはわかっている、…

子どもの高次脳機能障害と発達障害

** 子どもたちの高次脳機能障害−理解と対応 the Ontario Brain Injury Assosiation ** 高次脳機能障害とは、事故や病気などで脳の損傷を負い、脳の認知機能の障害を起こしたもののことです。交通事故などのあと怪我などが回復しても脳の障害が残るために…

からだの病気とこころの病気の接点−慢性疲労症候群

** 危ない!「慢性疲労」 倉恒弘彦 井上正康 渡辺恭良 ** この本で扱う慢性疲労は、病気としての慢性疲労症候群です。この病気は、1988年に命名された比較的新しい病気です。健康な状態でいた人が、ある日を境に日常生活に支障をきたすほどの極度な疲労…

20世紀の社会状況から発達障害を読み解く

** やさしい発達障害論 高岡健 ** 著者は精神科医の高岡健氏。発達障害とはそもそも何なのか、どういうものと理解するべきなのか。 それをこの言葉が使われ始めた社会や経済の状況との絡みで説明しています。やさしい発達障害論 (サイコ・クリティーク)…

慢性のうつ病は性格の問題じゃなくて病気と考える

** 対人関係療法でなおす気分変調性障害 自分の「うつ」は性格の問題だと思っている人へ 水島広子 **対人関係療法というのは、1960年代から米国を中心に開発された精神療法です。精神療法というと、認知行動療法というのがわりと知られていますが、これ…

不登校と睡眠の深い関係

** 不登校外来 眠育から不登校病態を理解する 三池輝久/編著 **神戸市に『子どもの睡眠と発達医療センター』という場所(※注)があります。ここのセンター長の三池氏と、熊本大学医学部発達小児科の5人の著者により、子どもの睡眠についての新しい研究が…

先天性の相貌失認は自閉症スペクトラムだけに限らない

** 心の視力 脳神経科医と失われた知覚の世界 オリバー・サックス(アメリカ) **オリバー・サックス氏は、脳神経科医で作家、映画『レナードの朝』の原作者である他、『火星の人類学者』でテンプル・グランディンを紹介したことでも知られる方です。こ…

<番外編>日本の精神医学と「脳」の関係について

ひとつ前の記事で取り上げた本『うつ病の脳科学』(加藤忠史)は、ある意図を持って書かれているようにも読めます。 現状の精神医療の問題点を克服するには、病理学に基づいて精神疾患の疾患概念を再構築し、科学技術に基づく新時代の精神科医療を実現しなけ…

「うつ」を脳科学の最先端から考える

** うつ病の脳科学 精神科医療の未来を切り拓く 加藤忠史 ** 発達障害の当事者で、うつを併発しておられる方は多数あります。また、親御さんがうつになるケースが多いというのも報告されているようですし、実際多いと感じます。うつとは何でしょうか。「…

うつが人間関係を壊す過程が見えてくると

** 「困った人」にひそむ「うつ」 性格の問題と片付けてしまう前に 下園壮太 ** かなり前に読んで、どうしても気になっていた本でした。著者は「うつ」に関する著書やDVDで知られるカウンセラー。純粋に「うつ」のことを書いた本です。でも、発達障害…

さまざまな要素が絡み合うひとりひとりを見つめる

** ドナ・ウィリアムズの自閉症の豊かな世界 ドナ・ウイリアムズ(オーストラリア)** 世界的に有名な自閉症スペクトラム当事者のひとり、ドナ・ウィリアムズによって書かれた、自閉症論です。彼女は1963年生まれ。被虐待経験や家出といった壮絶な子ども…

<番外編>自閉症スペクトラムに関係するDSM−5の動向について

雑誌『臨床心理学第12巻第5号―特集 発達障害者支援』(2012年9月号)p.685〜p.686に、「DSM−5と発達障害」(黒木俊秀)という記事が載っています。前回の理解を踏まえて、臨床心理の専門家の方々が読む雑誌をちょっと覗き見しながら、DSMについても…

精神科の診断基準DSMの基礎知識

** こころのりんしょうà・la・carte Vol.28 No.4 精神科診断の新しい流れ:病名だけが診断ではない? ** 発達障害に接することになるきっかけはいろいろあると思いますが、関わる以上この用語は避けて通れないと思います。アメリカ精神医学会が刊行して…

脳で診る発達障害−4つのタイプで長所を活かす

** 活かそう!発達障害脳「いいところを伸ばす」は治療です。 長沼睦雄 ** 精神科医の方が書かれた一般向けの本には大雑把に3種類あるんじゃないかと、私は最近考えるようになりました。1.難解な医学領域の知識を一般の人々にも広めるために書かれた…

元祖アスペルガー型の自閉症

** 現代のエスプリ No.527 発達障害とパーソナリティ障害 新たなる邂逅 ** 前回の続きで、このムックをもう少し読みます。医学的に難しいところもありますが、私たち一般の人間としても、大筋として理解しておきたいと思うポイントがありました。ハンス…

1965年にハンス・アスペルガーが来日していた事実

** 現代のエスプリ No.527 発達障害とパーソナリティ障害 新たなる邂逅 ** 1965年、第6回日本児童精神医学会に、オーストリアの小児科医ハンス・アスペルガーが招かれ、特別講演をした、ということが、この本(ムック)の最後に置かれたインタビュー(村…

発達障害がなぜ統合失調症と誤診されてしまうのか

**精神科セカンドオピニオン2 発達障害への気づきが診断と治療を変える 適性診断・治療を追求する有志たち** 『精神科セカンドオピニオン』というのは、実在したウエブサイトの名前です。2005年10月に開設され、掲示板に寄せられた質問に答える形で、診…

実行機能障害という新しい考え方

**ADHD 集中できない脳を持つ人たちの本当の困難 −理解・支援 そして希望へ− Thomas E Browm (アメリカ)** 診断基準上のADHDを超えて、実行機能の障害という部分に光を当てて書かれています。学習障害やアスペルガー障害、抑うつや強迫性障害といった…

短期記憶と長期記憶

**ニュートンムック 脳のしくみ ここまで解明された最新の脳科学** オールカラーで脳の仕組みを図解した本です。色がはっきりしているので、人によってはグロテスクと感じるかもしれません。 脳のしくみ―ここまで解明された最新の脳科学 (ニュートンムッ…

ニセ科学を見分ける

** 「脳科学」の壁 脳機能イメージングで何がわかったのか ** 榊原洋一 うーん。頭を抱えてしまいました。 著者の榊原洋一さんは、発達障害関係の本も多数書かれていますし、NHKの健康番組などもに出てこられる小児科の先生ですから、ご存知の方もおられると…

聞くことのLD

** 図解 よくわかる大人のアスペルガー症候群 ** 上野一彦 市川宏伸 2年ぐらい前から、大人のアスペルガー症候群についての概説書が出回るようになり、その後、いろいろな出版社から、図解やイラストを交えたものが次々と出版され続けています。 そのほとん…

その人は、本当にアスペですか

** キャンパスの中のアスペルガー症候群 ** 山崎晃資 発達障害の勉強をはじめると、周りの人が皆アスペルガー症候群に見えてくる時期があるように思います。 変人に敏感になるのです(笑)。 思い込みが強かったり、世話好きだったりする人だと、実際に、そ…

治る と 治らない の間

9月8日(水)日本経済新聞の夕刊のエンジョイ読書欄に、ベストセラーの裏側『発達障害に気づかない大人たち』の記事が載りました。 記事を要約します。 星野仁彦『発達障害に気づかない大人たち』が2月の刊行以来15万部の売れ行き。初版は1万部と通常なみで…