うつが人間関係を壊す過程が見えてくると

   ** 「困った人」にひそむ「うつ」 性格の問題と片付けてしまう前に 下園壮太 **


かなり前に読んで、どうしても気になっていた本でした。

著者は「うつ」に関する著書やDVDで知られるカウンセラー。純粋に「うつ」のことを書いた本です。

でも、発達障害の問題を考える立場から読むと、人間関係について、いろんなことが見えてくる、手ごわい本だと思っています。

「困った人」というのは、ここではずばり、人間関係を壊す人のことを指しています。

責任感が感じられない、卑屈、利己的。。。。性格が悪いという印象を与える行動を起こす人。でも、これが、「うつ」の”社会的症状”(p.33)のことがある、と、この本では言うんですね。

うつの社会的症状は、うつの医学的症状との関連で起こってきます。一部だけ紹介すると、こんな感じです。あくまでもイメージでとってください。本文では60ページ近くをかけて、もっともっとたくさんの症状を挙げてどうしてそうなるかをきちんと説明してあります。

作業能力が低下する → 大事なことを忘れる 時間にルーズ 
              責任を避ける  愚痴や言い訳 
              空気がよめない 大げさに言う 
自分を責める    → いじける 過去や社会を呪う 失踪する 
              アドバイスを聞かない 頑固 
自信を失う     → 小さな失敗で過剰にショック
              失敗を認めない 自慢したがる
              好きな仕事だけやる 一発逆転を狙う 
不安がとまらない  → 悪い連想が続く 
              解雇や離婚を過剰に恐れて問題を隠す
人を避ける     → 殻にこもる 協調性がない 
              味方を敵に回すような行動
攻撃的になる     → 些細なことに怒る 
好不調の波がある  → 口だけ調子がよい 
             大切なときにいなくなる
体調を崩す      → 体調のせいにしてよく休む 
              体調の表現がオーバー
しがみつき行為   → 有効でない対処(仕事、サウナ、借金など)
表面飾り      → 弱さを隠す        
                      など(第1章より)

要は「うつ状態になると誰でも能なしになり、性格が悪くなってしまう」ことなんです。(p.85)

そして、性格が悪いという理解の元に、『人格障害』のレッテルが貼られた例があったと書かれています(序章)。

ここなんですよねー。
ここが、私が以前から、どうしても気になる部分なんです。

もちろん、うつの社会的症状は、誰でも、うつになったら出てしまう、一過性のものです。うつを治せば、治るものです。

この本では、周囲の人たちがうつを理解するために、うつの本質を解説しています。

私は(現代人)のうつ状態の本質は、「蓄積された疲労疲労困憊した状態)」とさそれに対する「体の防御反応」であると考えている(p.100)

昔と違って、情報氾濫や環境変化の速さによってまず疲労が蓄積しうつ状態になり、それによって人間関係が崩れてきて、それがまたストレスになってうつ状態が悪化するケースが多いと言います。
知らない間にうつになっている。

本質的には疲労なのだから、しっかり休めば治るのですが、治るのにかなりの期間がかかることが、また、人間関係を悪化させるといいます。特に、かなり良くなってきてからのリハビリ期と呼ばれる時期が、誤解されやすいようです。

本来の7割ぐらいのパワーしか出せない時期が半年以上続き、普通の仕事はできるが、責任の重い仕事や、人と何かを調整する作業などが辛いので、ここでまた人間関係を崩しやすいといいます。周囲の人の理解が大切なのですが、支えてきた人も疲労してくる時期と重なり、難しいといいます。(p.140〜p.143)

若い人のうつが増えている原因として、「疲労の主な原因が精神的な活動になってきた」(p.153)ことをあげています。決して若者が弱くなったのではないと。若い人には社会的症状が目立って現れるいくつかの要因があり、それを未熟型うつ病と名づけることについては下園氏は警鐘を鳴らしています。

そう診断された若者は、「では、自分の未熟さにすべての原因があるのだ」と自分を責め、自信を失い、社会に怒りを向け、うつ状態をいっそう悪化させるだろう。(p.167)

だいたいこういうネーミングになったというのは、診断した医師が、うつの社会的症状を性格や能力の問題、<未熟>な<人格形成>によるものと受け取った結果だと推測されるわけで、そうすると、とてもややこしい問題が出てくるように思います。

ある人の極端な反応や、社会に受け入れられないような言動に接したときに、私たちはこれまで、性格・能力と見るか、病気と見るかの二つの視点しかなかった。
ここでは、第三の視点、うつ状態の反応として見てみることを紹介した。(p.108)

第三の視点になってみることは医師でも非常に難しく、どうしても、社会的に<困った行動>は<治らない原因>によるものだと思ってしまう傾向があるということなのだと思います。


初めにも述べたとおり、この本は純粋に、誰でもなりうる、うつの社会的症状について述べた本です。発達障害のことなんて、ひとことも出てきません。

でも、今、発達障害と診断されている人、特に大人になって診断された人、自己診断で自助グループに参加している人、二次障害といわれている人、あなたの人間関係のしんどさのいくつかは、発達障害そのものではなく、うつの社会的症状かもしれないと思いませんか?
また、周囲にいるあなたが名づけた<アスペな人>は、もしかしたら本当は、うつではないでしょうか。

第三の視点になってみるのは、難しいでしょうか。

手ごわい本だと書いたのはそういうわけです。



(『「困った人」にひそむ「うつ」』 下園壮太/著  2010年 中央法規 


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