子どもの高次脳機能障害と発達障害

 ** 子どもたちの高次脳機能障害−理解と対応 the Ontario Brain Injury Assosiation  **

高次脳機能障害とは、事故や病気などで脳の損傷を負い、脳の認知機能の障害を起こしたもののことです。交通事故などのあと怪我などが回復しても脳の障害が残るために、以前と同じ仕事ができなくなったり、家事がこなせなくなったりという例を、テレビなどで見聞きすることも増えましたね。

このブログでも、病気のために短期の記憶力をなくしてしまった人の記録を紹介したことがあります(→参考記事へ)。

今回取り上げる本は、そのような高次脳機能障害が子どもに起こった場合の対応法、特に学校生活について詳しく書いた解説書です。

要所要所は箇条書きに表形式でまとめられ、解説が加えられています。

子どもたちの高次脳機能障害―理解と対応

子どもたちの高次脳機能障害―理解と対応

  • 作者: The Ontario Brain Injury Association,中島恵子,加賀令子
  • 出版社/メーカー: 三輪書店
  • 発売日: 2010/07/07
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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ところで、高次脳機能障害が子ども時代に起こるというのはどういうことだと思いますか。

脳機能の障害が、自動車事故や髄膜炎のあとに残ることがあるというのは、なんとなくイメージできるのですが、そのほかにもさまざまな原因が考えられることがこの本には出ています。
水に溺れること、窒息、自転車からの転倒、スポーツによる怪我、そして、塗料吸引や一酸化炭素中毒、薬物使用などです。最近話題の揺さぶられっ子症候群も載っています。(p.27)
 
大人の場合、損傷した部分の機能が失われ、それを補ったり、回復のための機能訓練をしたり、という対応になるわけですが、子どもの場合は、そこに、発達という視点を取り入れる必要がでてくるといいます。
 
発達のどの段階で、つまり、何歳何ヶ月でその脳損傷を負ったかということが、その子の症状に大きく影響してくるということです。この本では年齢段階別に、予想される正常な発達と、後天性脳損傷により起こりえる影響を表に整理して解説してあります(p.33-35)

脳損傷を負った時点までは正常に発達していたことと、脳損傷の後の発達が障害されたことで、その子のできること、できないことに、非常識なアンバランスができてしまうことが、この表からわかります。衝動性や抑うつが現れることもあり、他者との協調性や自己管理の難しさなどが出てくる可能性もあります。
 
それは、私たちが、発達障害の問題として学んでいることと、非常に良く似ています。


この本のはじめに監訳者中島恵子さんの書かれた序文があり、複数の出版社から翻訳を断られた経緯が書かれていました。「この本を必要とする人はきわめて少ない」という理由だったそうです。でも、私は、そうは思いませんでした。

最終的にこの本は翻訳出版されたわけですが、帯には、このようなフレーズが載せられています。

学習障害と言われている子どもたち、もしかしたら"高次脳機能障害”かもしれません。

そのとおりなのです。今、発達障害といわれている子どもの中に、実は発達障害ではなく、後天的な脳損傷による高次脳機能障害の子どもたちが含まれていて、全く気づかれていないのではないか。気づかないまま大人になり、周りと違う自分に悩んでいるケースがたくさんあるのではないか。この本を必要とする人はする人は、日本じゅうに大勢いるのではないかと思われます。

 
症状が似ているのなら、対処法も似ているのではないか。と、思いますよね。
それなら、区別する必要もあまりないということになりますが、
この本では、学習障害への方略の多くが後天的脳損傷にも有効であると述べたあとで、二つの違いを明確にして理解する必要性を強調しています。

後天的脳損傷の場合、損傷を受ける前に学習したことはちゃんとできるのに、後から学んだことがうまく入っていかない、突然何かがうまく行かなくなるという現象が起こるようです。
九九がすらすら言えるから、算数の新しい課題もできるはず、などの指導者の誤解が、結果として本人の自尊感情を強く傷つけるといったことです。指導者側からみれば、今この子に何ができて何ができないのかを把握するのが、発達障害よりもずっと難しいということです。
後天的な脳損傷による高次脳機能障害であることをちゃんと理解して対応することが、そのお子さんの発達を支援するためには是非とも必要であるといえます。
 
  
脳損傷は、意識障害もなく、救急外来へ行くこともなく、また学校を休むこともないような軽い転倒や事故により起こることもある(p.103)そうです。学校も、保護者も、専門家も、全く気がつかないまま、急に怠け者になったとか、反抗的になったというような印象を受ける行動が目立ち始め、診断を受けると、発達障害と言われた、なんていう話があってもおかしくないと思います。

発達障害の認知度に比べ、子どもの高次脳機能障害の認知度はかなり低いのではないかと思います。親御さんが既にあの事故が原因ではと気がついておられても、誰にも相談できない状況もあるかもしれないとも思います。この本がたくさんの教育・医療関係の方に読まれて、きちんと鑑別がされるようになるといいと思います。また、対処法として紹介されている方略が、子どもさん、指導者、保護者の立場をしっかり踏まえつつ、理路整然と解説され、良くある誤解や、良くある指導の間違いなども例に出しながら、きめ細かく押さえてあるので、

発達障害のお子さんを持つ親御さんにとっても、理解の手助けになり、参考となる一冊だと感じました。
 
 


( 『子どもたちの高次脳機能障害−理解と対応』 the Ontario Brain Injury Assosiation/著 中島恵子/監訳 2010年7月 三輪書店 


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