聞くことのLD

  ** 図解 よくわかる大人のアスペルガー症候群 ** 上野一彦 市川宏伸



2年ぐらい前から、大人のアスペルガー症候群についての概説書が出回るようになり、その後、いろいろな出版社から、図解やイラストを交えたものが次々と出版され続けています。


そのほとんどは、社会一般に向けて、アスペルガー症候群とは何かということを説明し、理解を求めることを主な目的にしているのではないかと思われますが、


この本は、当事者=発達障害の本人 が、自分の生きにくさを理解し、生きるヒントを得るために利用することを目的に書かれているのが、大きな特徴で、当事者には心強い内容です。



図解 よくわかる 大人の アスペルガー症候群

図解 よくわかる 大人の アスペルガー症候群



この本で、私が注目したのは、『発達障害スペクトラム』という捉え方で、LDとASDを連続したものとして紹介した部分で、そこに、聞くことが困難なLDというものが紹介されていました。


聞くことが困難なLDには2タイプあり、
●言語性LD:多数の音の中から必要な音だけに注意を向けられない、音を言葉としてとらえられない、ワーキングメモリに問題があってすぐに忘れてしまう。
●非言語性LD:文字や記号、図などの理解が弱い
これらに、ADHD傾向が重なると、人の話を最後まで聞かず口を挟む、話題を無視して一方的にしゃべるなどの行動がでるとあります。


言語性LD、非言語性LDは、一つ前に読んだ『天才と発達障害』のなかの、視覚優位タイプ、聴覚優位タイプの極端なものと、ほぼ対応しているように思いました。


この本では、話すことのLDというのも紹介されています。

●脳の単語の記憶にかかわる部分の不具合
●順序や因果関係の整理が苦手
●音韻の障害
などの原因があり、非言語性LDでは、状況や身振り手振り、表情の意味を理解しにくいので話が通じにくいと思われることもある、という説明でした。


日本では、発達障害全般をLDと呼んでいた時代があると聞いていますが、私が勉強を始めた頃には、自閉性の障害と学習障害(LD)は分けられていました。でも、この本の、自閉症の特徴とされるコミュニケーション障害が、聞くこと、話すことのLDとの連続性として捉えられるという説明は、とても、理解しやすく、対処の仕方も考えやすいように思いました。



このほかにも、この本には、少ないページ数に、細かいことまでよく書き込まれていると感じることがたくさんありました。二次障害が起こるプロセスの図解、ウェクスラーテストの下位項目の解説、人付き合いのマナーやコミュニケーションのポイントなど、さまざまな観点から丁寧に説明してあります。ケーススタディとして紹介してあるのは当事者の方4人の手記で、読み応えがあります。



医学の立場からと、教育学の立場からのこれまでの研究と経験の成果がぎっしりつまっているという印象の一冊です。