10歳の壁と社会性の発達を考えてみる

   ** 子どもの「10歳の壁」とは何か?乗り越えるための発達心理学 渡辺弥生 **

子どもの発達にとって、9歳から10歳ぐらいの変化は大きなもののようです。確かにこの辺りから子どもは少しずつ大人と同じ領域に入ってくるように思いますし、不登校やいじめなどの問題も出てきやすい時期のように思います。

この大きな変化を乗り越えるために、それまでの子育てが大事だというのはなんとなくわかるのですが、最近の雑誌などの取り上げ方が、早期教育の宣伝になっていて、何が大事なのかよくわからないという話から、この本は始まります。
確かに、よくわかりません。

この際きっちりと、発達心理学でわかっている知見から、10歳の壁について学んでみたいと思います。

子どもの「10歳の壁」とは何か? 乗りこえるための発達心理学 (光文社新書)

子どもの「10歳の壁」とは何か? 乗りこえるための発達心理学 (光文社新書)

発達障害を考える上で、非常に興味深い話が最初の方に出てきます。

聴覚障害児の教育現場で、昔から「9歳レベルの峠」ということが言われていたという話です。(p.45)
私たちが使っている言語スキルには大きく分けて、BICSとCALPというものがあるのだそうです。BICSとはいわゆる話しことば、生活のなかで、文脈や手振り身振りなどに支えられた会話能力のことで、CALPは書きことば、学習に使われる低コンテクストな言語能力のことです。
小学校4年生ごろから学習内容はより抽象的になり、CALPを使って言語でものを考える学習になっていきますが、聴覚障害児は、ここで学力がつまづいてしまうことがよくあるというんですね。

この質的な転換を乗り越えるために、幼児期の自由な遊びが大事なのだそうです。自然で豊かな会話や経験の蓄積、質の高い遊び。平行遊びから連合遊び、協同遊びへの変化を通して、子どもは社会性を身につけますし、見立てやごっこ遊びなどでイメージを発達させます。聴覚障害児では経験不足になりやすいこの点に注意して幼児期を過ごすことで、BICSからCALPへの飛躍が可能になると考えられているようです。(pp.46-53)

抽象的なものの考え方ができることにより、社会性や道徳性も発達してくると考えられています。
友達関係もお互いの趣味などを知り合う関係になり、自分というものを複数の側面からとらえるようになり、「Aは、Bが○○と考えている、と思っている」という、他人の心理を推理する能力が身につき、肯定的な感情と否定的な感情の両方を体験していても自発的に言葉で表現できるようになり、相手の内面を想像して互いの視点を調整できるようになり。。。。。と、話がすすんでいきます。

つまり、学力だけでなく、社会性、道徳性の発達のために、乳幼児期にしっかり大人とかかわり、しっかり遊んでおくことが大事、ということです。

最近は子ども全般にその経験の不足が問題になります。家庭での教育力の低下、子どもの数が減って友達同士で遊ぶ機会が少なくなっていると指摘しています。幼児期後半になると明らかに「友達と楽しくかかわれない子どもの存在に気づく」(p.220)と書かれていますが、それは生まれてから5、6年の生活経験の質によって起こってくると書かれています。

これらを総合して考えてみると、小学生になって社会性が発達していない子どもには、少なくともふたとおりの理由が考えられることになります。なんらかのハンディがあったのか、それとも、乳幼児期の経験不足か、です。

社会性が育っていない=生まれつきの脳の特性 とは到底いえないということになりますし、 
裏を返せば、幼児の育つ豊かな環境があれば、ちょっとぐらいの脳の特性などなんのその、子どもはすくすく育っていくということになります。
実際は、経験不足な子どもが増えてきたことで、そのちょっとぐらいの脳の特性が目立ってしまっているのが、今の軽度発達障害と言えるのかもしれません。

10歳は実際は上れない壁ではなく、峠であり、飛躍の時期だといいます。
社会性を育てる「ソーシャルスキル教育」道徳性を育てる「思いやり育成プログラム」が紹介されています。(第9章)
発達心理学が示す、何歳ならこう、という特徴は、放っておいても自然にそうなる、何もしなくてもプログラムされているという意味ではないといいます。
大人が支援し、環境を整えてやることが必要で、それを学校や病院などで取り入れていくのがこれらのプログラムということです。

学校や病院などでこのようなプログラムが組まれることはいいことだとは思いますが、その前に、幼児期の経験を豊かにしていくにはどうしたらいいのでしょうか。
難しいけれど、真剣に考える必要があるように思いました。
 


( 『子どもの「10歳の壁」とは何か?乗り越えるための発達心理学』 渡辺弥生/著 2011年4月 光文社新書 ANATOMY OF EPIDEMIC by Robart Whitaker 



ブログランキング・にほんブログ村へ