『学校』をみんなで語り合える世の中にしたい

   ** 学校って何だろう 教育の社会学入門 刈谷剛彦 ** 


社会学者の刈谷剛彦さんが、中学生新聞向けの連載として書かれたものをまとめたものです。

学校とは、とくに日本の学校とは、どういうものなのか。
どうして毎日行かなければならないのか、どうして校則があるのか。

中学生にもわかるようにできるだけ難解な用語を使わずに説明しています。

学校って何だろう―教育の社会学入門 (ちくま文庫)

学校って何だろう―教育の社会学入門 (ちくま文庫)

社会学というのは、人々が当たり前にやっていること、考えていることについて研究する学問だといいます。どうしてそれが常識みたいに考えられるようになったのか、を毎日研究しているわけです。

だから、ここで問題になるのは、学校はこうあるべき、こうするものだ、と、普通に考えられていることが、どうしてなのか、というのをもう一度考えてみることです。

たとえば、これ。
 勉強すること、学校に行くこと、たくさん教育を受けることは、いいことだ
これを疑った議論はほとんどありません。大前提です。
いわゆる高度成長の時代に、普通科の高校が増えていった背景には、普通科目を勉強できることがいいことだと考えられていたことがあるといいます。職業科目を教える高校でも、英数国理社の割合が高いのが日本の高校だといいます。以前ドイツの学校制度について書いた本を読みましたが、確かにドイツではもっと割り切ったコース分けをしていました。

授業はいっせいに前を向くもの。試験は黙って、隣の人を見ない。そのような暗黙の了解も、教室の仕組みや、試験の繰り返しによって身につけたもので、歴史や他の国の例などを見れば、その常識だけが絶対でないことがわかってきます。

教科書の内容が国で一律に決まっているというのも、当たり前ではありません。
イギリスでは1988年から、日本などにならって、ナショナル・カリキュラム(国が決めた教育内容)が導入されたのだということです。日本では逆に画一教育が批判されていたりしますから、いろんな見方があることがわかります。

要は、発想を柔軟にして、これが絶対という尺度を捨てて考えてみようということです。

こういうのもあります。学校には隠れたカリキュラムがあるということ。
たとえば、時間を守ること、男子と女子、学年と年齢、「日本」というまとまり、など、知らず知らずのうちに身につける考え方です。社会に入っても、生まれ年を聞きあって、先輩だの後輩だの、と、日本人なら普通の会話ですが、これは学校で身につけたものの考え方のパターンなのだといえます。

また、学校の先生に期待する役割には日本独特のものがあります。
勉強以外の「よい大人になる」ための社会習慣や道徳観などを学校で教えることが期待されていますが、欧米では道徳は宗教(教会)の役目なのだそうです。生徒指導や相談は専門のスタッフがこなし、教師は教科を教えるだけの国も。

どちらが優れているということをいっているのではないです。いまある常識を相対化して、いろんな見方があることを知ることが大事。そこから立場を超えた学校についての議論を起こしていこうという意図が書かれています。

このほかにも、さまざまな考え方が示されていますが、その中で私がいちばん印象に残ったのは、
「みんないっしょ」の原則と、「ひとりひとり」の原則とについてです。
生徒には、いっしょに同じことをすること、助け合うこと、仲良くすることが求められ、と、同時に、一人一人に成績が付けられ、進路が振り分けられる。また、個々の違いを認めてその考えを尊重するという方向性も大事にされつつあります。
「みんないっしょ」の原則と、「ひとりひとり」の原則は対立するものですが、小学校まででは「みんないっしょ」が前面に出るし、高校以上では「ひとりひとり」が中心になってくるので問題は起こりにくいのだといいます。問題は中学生です。
生徒としてうまくやっていくのには、二つの原則の間を上手にバランスを取らなければならない。ここに、中学独特の難しさがあり、先生の権威が減ったこともあって今の中学生は不安の多い「生徒の世界」に生きることになってしまったといいます。

発達障害に関わる人たちにとっては、中学という時代のむずかしさをある意味的確に言い当てているように感じられないでしょうか。高校に入ったとたんに楽になったというのはよく聞く話です。

また、今の中学校の人間関係の窮屈さは、すでに隠れたカリキュラムとなって大人になっても影響し、若者全体の人間関係を変えつつあるように私には思えます。大人の発達障害といわれる現象には、少なからず社会の側からの問題が含まれているように思われるのです。

とにかく、オープンな議論を。そのための柔軟な発想を。私はこの考えに賛同します。日本の社会全体に関わることだと思うのです。



(『学校って何だろう 教育の社会学入門』 刈谷剛彦/著 2005年12月 筑摩書房


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