<番外編>脳科学から見たことばの獲得と、自閉症スペクトラム

前回の補足として、この本『ことばでつまづく子どもたち』が自閉症の発症原因として解説している内容について書きたいと思います。


私自身は、自閉症スペクトラムがなんらかの機能不全による<障害>で、<普通>になることで改善するものであるという考えには違和感を感じる方です。しかし、言葉のやりとりにかなりの不自然を感じる自閉症スペクトラムの人を実際に見ると、やはり大変だなぁと感じることも事実です。

ことばのやりとりそのものより、態度や興味の質的な違いから自閉症スペクトラムと想定されている人たちがいますが、これは本当に一続きのものなのか、いまだしっくりと納得いっていない部分もあります。高い言語能力や哲学的思考を持つアスペルガー症候群もあると書いてある本もあるくらいです。

でも、高い論理思考を持つアスペルガー症候群の人と、知的障害を持つ自閉症の人が親子やきょうだいだったりするケースもたくさんあるので、やはり何か関係があるのかなぁとか。。



さて、この本の内容に戻ります。

この本は子どもの発達に沿って解説されていて、自閉症の解説は乳児期の、ことばをしゃべる前、ことばを理解するまでの段階のところに出ています。

ことばは、養育者(ほとんどの場合は母親)の唇の動きを見たり、声を聞いたりしてマネることで獲得されていくのだそうです。生後三ヶ月ぐらいから出てくるウー、クーといった言葉に母親が応え、やりとりすることで親子の確認がなされ、コミュニケーションの基本ができてきます。言葉が意味として捉えられるためには言葉が聞こえるだけでだめで、匂いや触感など、五感から入ってくるものがネットワークされて脳ができあがってくるのです。以前勉強した『脳の刈り込み』です(>>赤ちゃんと共感覚)。人間の脳にはもともと100ほどの音素(子音、母音)が生まれながらに備えられており、日本語の音素は25個ほどなので、残りは使わないのだそうです。

自閉症では、この、マネをする機能のところになんらかの機能不全があるという説が有力だとのことでした。ミラー・ニューロンという神経細胞機能が、自閉症アスペルガー症候群の診断を受けている人では異常がみられるという報告があるそうです。

また、ミームという新しい考え方も紹介されています。これまで遺伝と考えられていたさまざまな行動特徴などが、親から子への模倣によって受け継がれているというものです。本の中では、生後すぐには自閉症らしさが目立たないのに、2歳前後から障害がはっきりしてくる一群について、このミームとの関係が示唆されています。

いくつか候補はあるものの、何が問題の核心なのか、まだ不明とということなのですが、それでも、大事なポイントがあるように思います。

対人交流や社会性のつたなさなどの自閉症らしい『特性』が、そのまま最初から脳にあるのではないということです。これらは、核になるなんらかの問題から二次的に発生している状態とみられると考えられていると述べられていました。

社会性や言葉というものは、育ちの中で獲得されていくものという大前提があるように思います。


これは、自閉症スペクトラムは生得的な何かを原因とするものの、療育的な介入が可能であるという考えに一致します。発達のデリケートな実際を学べば学ぶほど、遺伝だから何をやっても無駄だとか、環境を変えたら改善したから遺伝ではない、とかという議論は無意味だということがわかってきます。




もうひとつ、自閉症に関して、目に止まったことがありました。

脳梁欠損症という障害のことです。左脳と右脳をつなぐ脳梁の部分がないために、左右の脳を連動して働かせることができないというものです。本の中の症例では、字の読み書きや計算、お絵かきで色を選ぶことができない、指示に従えない、長い文での会話ができないなどの症状が紹介されています。砂遊びなど単純なものに熱中するので自閉症と誤診されていました。

確か、映画『レインマン』のモデルになったとされるキム・ピークさんが、脳梁がなかったのではないかと思うのですが、いかがでしょう。うろ覚えだったので、他サイトをリンクします。>>Wikipedia キムピーク

以前は、レインマン自閉症サヴァンについての映画だと紹介されていたと思いますが、引用したサイトにも自閉症の言葉はないですね。「恐らく先天性脳障害による発育障害で、小脳に障害があり、また脳梁を欠損している」とあります。

先ほどの症例のお子さんは人の感情を良く理解していてこれが自閉症では納得できないという印象を持ったと書かれています。画像診断などの新しい診断技術がすすんでくることによって、自閉症とされていたものが実は違っていたということが、これからもでてくるのかもしれません。




以上、補足でした。

私自身は、自閉症スペクトラムのかもしだす「らしさ」に魅力を感じており、彼らの良さが認められることを目指しています。どこが自閉症らしさの核心で、どこが副次的なものなのか、彼らが今感じている生きづらさは、どう乗り越えていけばいいのか、これからも学んでいきたいと思っています。



(『ことばでつまづく子どもたち 話す・読む・書くの脳科学』竹下研三  2011年9月 中央法規 )



ブログランキングに参加しています。記事が面白いと感じられた方、このブログを応援してくださる方は、下のバナーをどれかひとつ、クリックしていただけると有難いです。
にほんブログ村 メンタルヘルスブログ 発達障害へ
にほんブログ村

にほんブログ村 本ブログ 一般書・実用書へ
にほんブログ村

にほんブログ村 教育ブログ 特別支援教育へ
にほんブログ村

人気ブログランキングへ