なりきる私と見られる私

  **「自閉症」の子どもたちと考えてきたこと** 佐藤幹夫
 


自閉症の子どもは『ごっこ遊び』をしないというような話を聞いたことがあると思います。じゃあ、自分はどうだったかとか、自分の子どもはどうだったかとなると、物まねや○○のふりというのは、ごっこ遊びに入るのか、入らないのか、なんとも判断がつかないことも多いように思いますが、いかがでしょうか。


「自閉症」の子どもたちと考えてきたこと

「自閉症」の子どもたちと考えてきたこと



著者の佐藤幹夫さんは、フリージャーナリストという肩書きで編集や執筆をされている方ですが、以前、養護学校の教師をしてこられた経験をもとに、この本を書かれています。21年間の教育の現場で得たものをまとめて、保育や福祉を学ぶ若い人向けの講演という形式です。おもに、知的障害をもつ自閉症のこどもについて書かれていますが、それが、高機能と呼ばれる、知的に高い自閉症の理解にもつながることが、最後の方で示される形をとります。


まず、自閉症というのは、現場レベルでいえば、脳機能うんぬんというより、関係性・社会性の遅れであり、遅れてはいても、間違いなく育っていく個々の子どもたちにどう「しっかりしたかかわり」「信頼関係」をつくっていくのか、ということが、学説がどう変わっていこうと大事だということが述べられます。ひとつの学説やプログラムを妄信的に神格化する『教条主義』への抵抗は、私自身にもあり、とても共感できました。


次に、自閉症の常同行動、こだわり行動、行動のパターン化について、どれも、人間としては普通にやっていることの延長線上で理解できるということを説明しています。これも、私も以前から感じていたことで、それをうまく説明していただいてすっきりした感じです。


常同行動(ぴょんぴょん跳んだり、手をひらひらさせたり)は、普通の人たちの髪をいじったり、ペンをくるくる回すといったクセと同じものと考えられ、集中、イライラ、ボーっとしたときなど、意識が外へ向かわず、内向きになっているときに、感覚的な刺激で心理的な安定を図ろうとする行動と考えると理解できるということです。


こだわりは、生活を快適にすることで自分自身を快適にリラックスさせる方法ということで理解できます。また、こだわりは、普通、自分自身へのプライドを意味し、これは知的障害のある自閉症の人でも全く同じなのではないかということを指摘しておられます。パニックの原因にいくつかあるという中にも、プライドを傷つけれたられたことへの怒りというのを挙げておられます。自閉症の人のプライド。知的障害の人のプライド。この視点はとても大事だと感じました。



後半では、自閉症の育ち、発達について述べられています。多少難しい言い回しがあって、ゆっくり読み進めなければならない部分です。とても丁寧に論理をすすめられているのですが、ここでは思い切って、単純に言い換えさせていただきます。


普通の人にあって、自閉症の人に乏しいものとして、相互二重性というのがあって、それが弱いことによって、自閉症の人の「私(自己)」の育ちがうまくすすんでいかないということ。


私たちが普通に経験している「やり−とり」には、二重性が含まれているという説明から始まります。話すことは相手と同時に自分の声を聞くことであり、ボールを投げることは相手がそこにいるということを受けとめて初めてできることである。また、テレビタレントなどになりきって演じるとき、そこには、普通は、見られている自分への意識があり、友達が演じるときは、二重になっている友達を、二重の自分が見ているという多重の構図があるということ。


そこに、「ごっこ遊び」が成り立つための要件があるというのです。


役になりきっているだけでは、ごっこ遊びではないということです。見られる私が意識されてはじめて、その文脈でなにを演じなければならないかが理解できるということだと思います。


アスペルガー症候群の「字義どおり性」といわれる現象や、視点の置き換えが難しく、正直すぎる、恥ずかしがらない、といった特徴も、自分を二重に見ることができにくいことで説明できると言っておられます。


私たちは、絶えず、自分自身(なりきる私)と、他人の視線(見られる私)の葛藤を乗り越えながら、二つの私を調整して新しい私に作り変えることによって成長しているともいえ、そのような成長のありかたが難しいというとことに、自閉症のしんどさがあるということになるのだと思います。



「やりーとり」、かかわりの弱さを持つ彼らだからこそ、どんな風によいかかわりをつくっていくか、現場にはその点を頑張って欲しいというエールで、この本は締めくくられています。人間の自然な育ちの過程に、専門的知識を持ってコントロールされたかかわりを持つことで介入するという、教師のプロとしてのあり方に、静かな感動を覚えました。






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