<番外編>アスペルガー感性とAQテスト

毎回一冊ずつ本を紹介していますが、今回は番外編です。
こちらのニュースについて、書いてみたいと思います。

マネジメントベース、「大人の発達障がいに関する調査結果」を発表
組織・人材に関する各種アセスメントの開発・提供を行う株式会社マネジメントベース(本社:東京都文京区)では、今年2月に20歳以上の社会人・学生1148名を対象に大人の発達障がいに関する調査を実施致しました。その結果の一部を公表いたします。自己回答式設問ベースで、その傾向があると判定された人の割合が8.8%となりました。
          (日本の人事部HPより引用 http://jinjibu.jp/news/detl/5712/


この調査に使われたのは、自閉症スペクトラム指数(AQ)という自己回答式のテスト(以後、AQテストと表記)です。これは、このブログで以前紹介した、バロン=コーエン著『共感する女脳、システム化する男脳』という本の付録についていて、誰でも簡単に自己採点できます(インターネット上でも公開されています)。

 
AQテストを日本語訳された若林明雄氏(千葉大学)が、この本に解説を書いておられますが、ここを読むと、バロン=コーエン氏(ケンブリッジ大学)は、外界の理解のしかたに個人差があることに注目し、それと、自閉症という現象とを関連づけて考えようとしておられるということがわかります。共感、システム化としてこの本で取り上げたものは、若林氏の解説では、外界を「心的因果」でとらえるか「物理因果」でとらえるかという傾向の個人差と言い換えられています。(サイモン・バロン=コーエン『共感する女脳、システム化する男脳』2005NHK出版、321ページ)


AQテストも、この個人差研究の延長線上にあると考えられます。AQテストの点数が高いというのは、アスペルガー症候群のひとたちと同じような外界のとらえ方をする傾向があるということを意味していますが、アスペルガー症候群であるということそのものを意味してはいません。


本の付録には、AQテスト33点以上の解釈のところに「高機能自閉症アスペルガー症候群の成人では、約90%がこの得点範囲に入ります」という但し書きが入っていますが、これは、診断された人にAQテストをした結果について述べているだけです。33点以上の点数をとったからといって、どのぐらいの率で診断がつくかといったことはここではわからないし、33点以下でも、診断がつくことがあるということになります。

 
まさに、ここで、『アスペルガー感性』という言葉が、ぴったりだな、と、思いました。


前回とりあげた、『精神科セカンドオピニオン2』のなかで、笠陽一郎医師は、誤診・誤処方されていた発達障害について、「自閉性気質」「アスペルガー感性」などと表現されています。特性に合った環境で周囲に理解されていれば、精神科を継続的に受診しなくても十分やっていけるような人たちが、小さいときからいろいろな経験を積むなかで精神の不調をきたし、結果、発達障害の二次障害という診断に落ち着くという構造が見えてきていました。


8.8パーセントということは、12人寄れば1人はアスペルガー感性の持ち主ということになります。どの職場にもいるありふれたタイプなわけですが、冒頭にあげた調査では、職種によって、このタイプの割合が違っていることが強調されています。個人差の考え方から言えば、適材適所がうまくいっているということになるでしょう。
 

 会社員(事務系) 5.6%
 会社員(技術系) 9.5%
 公務員      7.1%
 学生       9.6%
 その他・無職   21.6%  (同HPより)

実際にアスペルガー症候群と診断されている人の割合はもっと少ないことを考えあわせると、アスペルガー感性を持っていても二次障害をおこさず、社会生活を送れている一定の割合の人々がいると思われます。彼らは、もしかしたらちょっと変わり者かもしれませんが、それが、なんらかの偏見や社会的排除に繋がっていくことは、あまり好ましいことではありません。

 
AQテストは、障害を識別するためのテストではありません。個人差を知るためのテストです。この調査結果が、間違った方向に解釈されないことを願います。むしろ、12人に1人いる感性を生かした人理管理の方策が考えられ発展すれば、社会全体の利益になるでしょう。鋭いところ、鈍いところ、どちらも戦力になり得るし、生かせるかどうかはその職場の力量によると思います。うまくいっているケースもたくさんあるはずです。それらを研究することも大事だと思います。



そして彼らを職場に送り出す学校や家庭は、彼らが社会に適応できるだけの基本的なものの考え方、自己肯定感などを育てていかなければならないのでしょう。マナーや自己コントロールなどのスキルも必要でしょう。アスペルガー感性の持ち主たちが、職場で存分に力を発揮できるためには、社会全体での理解が不可欠だと考えられます。


このニュースは、おもに企業の人事管理部門や経営者の方々の目に止まることになると思いますが、「障害」という単語の語感に惑わされることなく、ある特徴を持った一定割合の人々がいるという認識を深めるのに役立つことを強く望みます。そして、このタイプの感性が人々のいろいろな個性の延長上に連続しているということが、多くの人々に解っていただけると嬉しいです。




関連記事:
>>発達障害がなぜ統合失調症と誤診されてしまうのか(2011/6/16)
>>共感する脳とシステム化する脳(2010/9/12)



 



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